論題: 私達の身近にある「知的財産権」について
序論: 「知的財産権」とは、一口に言えば、人の知的活動によって
生まれた価値あるもの--財産--のことです。例えば営業活動によって
獲得した信用(いわゆる暖簾)、創作した詩歌、小説、物品のデザイ
ン、計算機のプログラム、発明等がその代表です。
これらの財産に共通する特徴は、「無体物」--物質的な「形」がない
創造物--であることです。したがって金庫や倉庫にしまっておくよ
うな事はできませんので、創作の存在に気づいた悪意の第三者によって
容易に模倣や盗用され得るものです。
そこで国は積極的に---つまり特別の法律特別の法律を立てて---これらの無体財産を保護する
わけです。 その法的保護がどのように行われるか、を市民の目で見ることがこの講話の眼目です。
無体財産=無体物であるが価値を有するもの。
有体財産と同様に所有者が自由に使用/収益/処分できる。
例
*暖簾(=業務上の信用) |
(シャネル / シャンパン / サントリー/ニッカ)/td>
|
*サービス・マーク |
(やまねこ /白洋舎) |
*デザイン(意匠) |
(東京ドーム) |
・ノウハウ(秘伝/ 奥義) |
(銘刀正宗の製法) |
・肖像・彫刻・絵画等の一品工芸品/td>
| (→著作権法で保護) |
・小説、脚本、音楽 |
(→著作権法で保護) |
*考案< |
(洗濯ネット、万能ねじ回し)/td>
|
*発明< |
( ICチップ、iPad、真珠の製法) |
・黒い薔薇、ササニシキ |
(→種苗法で保護) |
下線を付けたものを「知的財産」といいます。
* 付き知的財産は、下記の特別法で保護.
産業上利用できる無体財産(「工業所有権」とも云う)
・発明 |
→ 特許法 |
・考案 |
→ 実用新案法 |
・意匠 |
→ 意匠法 |
・商標 |
→ 商標法 |
Q:なぜ、知的財産を特別法によって保護するか?
A:知的財産は法律によらなければ模倣盗用を防止できないから。
註:不正行為を規制する一般法として「不正競争防止法」があるが、この法律は損害が発生してから
でなければ適用されず、その証明が困難であるため、無体財産の保護に馴染まない。(→ 保護の手
遅れ.例えば「蟹道楽」事件) →特許法、実用新案法、意匠法、商標法では保護対象を"審査・
登録"を通して迅速に保護を図る。
<発明の保護>
*発明とは、「技術的思想の創作(特許法3条1項)」
* 技術とは…特定の目的/構成/効果をもつ客観的手順→* 反復・伝達可能(御木本パール事件)
* 累積的に進歩する
*保護の手段(方法)一定期間、発明者に独占権を賦与し、その後は開放し、社会的利用に供する(特許法68条)。
---発明者・国民双方の利益保護
→当該期間、"特許を征する者は世界を征する"から。
(USB、PDFはそれぞれ、Apple社、Adobe社が特許を自ら開放した.
*保護(特許)の条件
1. 産業上利用できる 発明のみ---実用不可のものは保護しない
2. 当業者(=当該技術分野の平均的知識を有する者)に理解できるように公開すること (36条.)
---累積的技術進歩促進のため
特許発明の好適例 ドットプリンタ インクジェットプリンター ページプリンタ
*特許制度の眼目
1. 発明に新規性と進歩性が必要
(公知技術を累積的進歩させる)
2. 先願主義vs先発明主義
(先に公開した者を優先的に保護する)
3. 審査主義
所定の基準を満たすものを保護。ただし考案は無審査)
4. 職務発明の対価
(発明に対する企業の寄与を考慮する)(→間歇ワイパー特許--先発明主義の欠点を象徴する例)
5. 優先権制度 (パリ条約)
・ PCT (複数同盟国に一括出願を可能にする)
・ 欧州特許条約 (→欧州共同体で共通の特許出願・審査)
・ アフリカ特許強力条約(アフリカ・マダガスカルで共通の特許権を付与する)
・ 日米統一特許条約(模索中)
<商標の保護>
商標とは… 商品・役務に付けて、その商品・役務の出所を認識させる標識
→"一定の出所から出た商品として一定の品質があることを保証して(品質保証機能)
消費者に憶えて貰らえる
↓
品質保証機能により、顧客吸引力が増大する。"
・キリンのマーク vs Asahiのマーク
・CocaCola の瓶
・MetroGolwinMayerの吠えるライオン
・Frank Muhler vs フランク三浦のデザイン
保護の態様… 登録主義(登録した商標のみ保護--日本)vs使用主義(使用により周知されれば保護--米国)
…それぞれに長所と短所
保護の条件… 1. 先行商標との間に出所混同を生じないもの
「出所混同」とは --
異なる企業から出た異なる商品を、商標が類似するため、需用者が同一物と誤認すること。
* 「商標の類似」 --
次のいずれかの点て類似する
称呼(「NHK」vs「MHK」、「クリスティーヌ」vs「クリスチーヌ」)
外観(「ライオン」vs「テイオン」)
観念(「キング」vs「王」)
2. 継続して使用すること
→ 3年以上不使用のとき、登録取消の対象登録取消可能 cf. 商標ブローカー
→ 使用する限り、何回でも登録更新可能 cf. 商標の転売(iPad)
ただし、商標名が一般の物品名称と化すると、他人の使用を排除できない。
例: エレベータ、エスカレータ
<我が国の伝統的知的財産>
「江戸時代に開花・発展した文芸、農業、鉱業、工業、水産、物流、教育・教養がある。これは日本人の
知性+江戸270年の平和の賜である」
(小島慶三:江戸の産業ルネッサンス(中公新書))
→
・ 現代日本の繁栄はこの伝統なくしてあり得ない。現在の知的財産もその延長線上にあります。
・ 欧州・米国以外で、医学、生理学、科学技術の分野で10名を超えるノーベル賞受賞者
(平和賞、文学賞を除く)を輩出したのは日本だけです。
・ ノーベル賞が無い数学や建築の分野でも日本は世界一流です。その世界の最高の受賞者を輩出しています。
・ これは上記の我が国の伝統あっての話です。この事実にもっと注意したいものです。
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