** * まちだ雑学大学 * ****

  講座概要


    
  第79回講座    2017.2.23  町田市文学館ことばらんど

             「高齢社会と社会保障制度」考
 石毛 鍈子 氏


 ある勉強会で100歳になった父親とどう付き合った
らいいか、と問われました。一瞬、言葉に詰まりまし
た。100歳を超えて活躍されている高名な方をメディ
アで存じ上げてはいても、私自身の身近では100歳と
いう方はおられなくて、100歳迄もあるいは100歳を超
えて人生を刻むということに実感が伴わないでいまし
た。それ以来、折あるごとに100歳になられる方をご
存知ですかと問いますと、具体的な紹介のお話も珍しくはありません。1963年に100歳
を超えた方は153人、それが98年には1万人、2016年には6.5万人になりました。1963年
から98年までは単純平均すれば年281人の増加、98年から2016年では3056人の増加で、
近年に至っての長命化に驚くばかりです。国連統計で2007年生まれの子どもの半数が
到達する年齢は、日本が107歳、アメリカ、イタリア、フランス、カナダ104歳、イギ
リス103歳、ドイツ102歳とのことです。人類は人生100歳時代を迎えているということ
でしょうか。

 
 社会保障制度で100年が政策スキーム
として登場したのは、2004年の「100
年安心年金」と言えましょう。厚生
年金18.3%、国民年金16900円を保険
料の上限とする保険料水準固定方式
の導入、マクロ経済スライドの導入
と所得代替率下限50%の設定、基礎
年金国庫負担割合3分の1から2分の1
への引き上げ、年金積立金取り崩し
で100年後の給付額1年分を残す有限
均衡方式の導入、の4つが施策の柱に
据えられました。マクロ経済スライドは長命化と出生率で給付を調整する考え方です
から、長命化が進み出生率がなかなか上がらない今日は年金給付の伸びも停滞すると
いうわけです。昨2016年の年金改正では、新規年金裁定者は賃金スライドで、既裁定
者は物価スライドでとしていた給付の調整方法が、既裁定者も賃金スライドとするよ
うに変更されました。

 医療・介護に関する制度は、団塊の世代が75歳以上の後期高齢期に入る2025年をタ
ーゲットに、目まぐるしく変更がなされています。今年の制度改定に注目すれば、後
期高齢者医療保険料軽減特例の見直し、70歳以上の高齢者に適用される高額療養費の
負担増、介護保険サービス利用料3割負担の導入(単身者年収340万円以上、夫婦世帯
463万円以上)、療養病床の介護医療院への改変、がなされます。また全国の区市町村
で介護保険から給付されてきた予防給付が、今年4月からは一斉に区市町村事業に変更
になります。サービス水準が低下するのでは、という懸念はぬぐえません。医療・介
護の制度は当面2025年に向けて改変が図られていますが、2025年の75歳以上人口は約
2200万人、2050年にはさらに約2400万人と推計されていますから、ここでも人生100歳
時代を見据えてさらに制度の効率化が計られていくものと思われます。

 高齢者に関する社会保障全体を見渡せば、政権交代の下、2012年の社会保障と税の
一体改革関係法による消費税5%引き上げの導入により、先ず3%分の引き上げが先行
されました。消費税引き上げの税収は全額社会保障に充当する約束のもと、子ども・
子育て支援の予算増、基礎年金国庫負担2分の1への引き上げなどが実現しました。で
すが、一体改革はここで低迷してしまっていると言わざるを得ません。再びの政権交
代で安倍政権は2016年6月、2017年4月の消費税10%導入の公約を2019年10月まで延期
すると公約変更しました。社会保障財源を欠く状況で一体改革プランにあった最低保
障年金の導入、介護保険料の低所得者減免などの政策は先送りされています。

 高齢者の生活保護受給世帯は2014年で75万5810世帯、10年前に比べて1.6倍に増え、
高齢者世帯に占める受給世帯の割合は2.6%から3.4%へ増しています。貯金なし、と
答えている高齢者世帯は16.8%(2013)に上ります。公的年金未加入者は9万人(2007)
、国民年金未納者296万人(2011~2013)と報じられています。子どもの貧困も無論
ですが、社会保障制度の後退あるいは高齢者の生活の変化に対応しない制度の充実の
遅れが、高齢者の貧困を増幅させています。


 自民党の提言「人生100年時代の社会保障へ」(2016.10)は、政府の高齢者社会保
障の効率化政策をさらに先取りしているように思えます。制度の与件とされているのは、
2020年以降は人生100年を生きる時代、終身雇用・定年という一つのレールではなく多
様な生き方が当たり前になる時代に労働法制や社会保障も変わらなければならない、と
する考え方です。一人一人が必要なスキルを身につけて働けるように支援、いかなる雇
用形態であっても全員社会保険に加入する勤労者皆社会保険、年金受給開始年齢を柔軟
にし長く働くほど得をする年金、自助を促す自己負担割合を設定する健康ゴールド免許、
などが提言されています。技術革新が予測し得ないほどに進む時代に、働くためのスキ
ル支援など、提言には肯ける部分もあります。しかし、健康管理などと医療費自己負担
をリンクさせる施策には疑問がわきます。受動喫煙による健康被害は自己責任なのでし
ょうか。

 社会保障と個人の関係についてしばしば、自助・共助・公助のバランスということが
言われます。自助は私と家族の領域、共助は近隣のつながり合い、公助は社会福祉や社
会保障を意味するのが、私の若いころの概念でした。いつの間にか公式見解として共助
は社会保険、公助は税金を財源とする生活保護を指す、とされ、近隣のつながり合いと
して互助が言われるようになっています。公助つまり国民生活に対する国・公の責任が
大幅に狭められ、互助をつくりだすことも含めて自助、自己責任が強調される時代です。

 が、私は自分を律することの大切さを全うするためにも、最低限の所得保障や命や介
護の保障は公の責任でと思います。その意味で社会保障と税の一体改革で打ち出した最
低保障年金などの施策を進めてほしい。さらには保育士不足で開所できない保育所の問
題、また介護士不足で特別養護老人ホームの空きベッドを埋められない状況、訪問介護
士等の不足の問題に対処して、社会保障の担い手・ヒューマンパワーを充足し、安心で
きる社会保障を、と考えるところです。



    
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