** * まちだ雑学大学 * ****

  講座概要


    
  第109回講座    2019.7.2  町田市民文学館2階大会議室

農地,人のかかわる生態系のはなし
-甲府盆地峡東地域の果樹園を例に-


関川 清広 氏
玉川大学農学部環境農学科教授(学科主任)


  生物の集まり(生物群集)とそれらを取り巻く環境を合
 わせて、生態系と呼ぶ。農地は作物を育て、生産物を得る
 ための土地で、人間の管理が作り出す人為生態系の一種で
 ある。生態系には炭素循環と呼ぶ現象がある。炭素(C)は
 大気中には二酸化炭素(CO2)として存在し、作物など植物
 たちは光合成によってCO2を炭水化物(有機物)に作り変え
 ることができる。植物はこの炭水化物をもとに自身の体や
 子ども(種子)を作り、一部を落ち葉のように地面に落と
 す。落ち葉(有機物)は、地表や地中の土壌生物によって
 分解され、CO2となって大気に還る。生態系を銀行預金口座
 や財布に見立て、Cを生態系の通貨とみなして、Cの収入
 (吸収)と支出額(放出)の差異を明らかにするのが、炭
 素収支研究である。日本では、畑地土壌は炭素について赤
 字(吸収<放出)、水田土壌はとんとん(吸収≒放出)で
あることが知られている。

 演者は甲府盆地峡東地域の果樹園(ブドウ園とモモ園)について炭素収支研究を行い、いずれ
も土壌炭素収支が著しく黒字(吸収>放出)であり、とくに吸収量のおよそ半分が下草(雑草や
被覆植物)によることを明らかにした。下草を生やす管理方法を草生法と呼ぶ。同地域の果樹栽
培は、その伝統的な農業形態から近年、農林水産省の日本農業遺産や文化庁の日本遺産に指定さ
れた。同地域の果樹園管理方法のひとつに草生法が含まれ、演者の研究成果により、伝統的価値
の一面が科学的に説明できた。


    
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